短時間労働者の社会保険適用範囲の拡大による従業員・企業への影響とは?
2020年「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立しました。より多くの人が働きやすい環境を作る狙いがあり、そのひとつの取り組みが「社会保険の適用範囲拡大」です。デメリットが生じる恐れがあるため、自身が適用対象となるかどうか、従業員・企業がどのような影響を受けるのかをしっかりと把握しましょう。
そもそも短時間労働者とは?
短期労働者は、パートタイム労働法と社会保険加入条件によって定義が異なります。それぞれの定義は以下のとおりです。
パートタイム労働法の定義
パートタイム労働法において、短時間労働者とは「同じ事業所に雇用されている労働者よりも1週間の労働時間が短い労働者」のことです。パート・臨時社員といった雇用形態であっても、ほかの労働者よりも労働時間が短ければ「短時間労働者」となります。
社会保険加入条件による定義
以下の条件をすべて満たした場合、短時間労働者として認められます。短時間労働者に該当すれば、社会保険への加入が可能です。(2022年9月30日まで)
・契約した1週間の労働時間が20時間以上(残業時間は含めず)
・継続で1年以上の雇用見込みがある
・月の給料が8万8,000円以上(手当やボーナスを含めず)
・生徒や学生ではない(夜間・通信・定時制を除く)
ただし、短時間労働者を除く従業員数が常時500人以下の事業の場合は、事業主と短時間労働者の合意がなければ、社会保険に加入できません。
短時間労働者の社会保険適用拡大の主な内容
近年、短時間労働者が増加しています。少子高齢化が加速し労働者不足が深刻化している現状を改善するため、社会保険加入条件による短時間労働者の定義が拡大されることになりました。
この動きを「社会保険の適用拡大」といいます。段階的に拡大が進められ、~2022年9月30日まで/2022年10月~/2024年10月~で適用条件が異なるため、注意が必要です。
2022年9月30日まで
・事業規模:短時間労働者を除く従業員数が常時501人以上
・労働時間:契約した1週間の労働時間が20時間以上(残業時間は含めず)
・雇用見込:継続で1年以上の雇用見込みがある
・賃金月給:月の給料が8万8,000円以上(手当やボーナスを含めず)
・対象人物:生徒や学生ではない(夜間・通信・定時制を除く
2022年10月1日以降
・事業規模:短時間労働者を除く従業員数が常時101人以上
・労働時間:変更なし
・雇用見込:継続で2か月以上の雇用見込みがある
・賃金月給:変更なし
・対象人物:変更なし
2024年10月1日以降
・事業規模:短時間労働者を除く従業員数が常時51人以上
・労働時間:変更なし
・雇用見込:継続で2か月以上の雇用見込みがある
・賃金月給:変更なし
・対象人物:変更なし
社会保険の適用拡大が従業員に与える影響
社会保険の適用拡大によって、より多くの労働者が社会保険へ加入できるようになりました。高齢者や扶養内労働者が働きやすい環境になることが期待されています。とはいえ、社会保険の加入はメリットばかりではありません。デメリットを知っておきましょう。
社会保険の適用拡大のメリット
事業主によって保険料の半分が負担されます。さらに、将来の年金受給額の増加・傷病手当金などの手当金・遺族厚生年金の支給といった、得られる金額が増加します。
社会保険の適用拡大のデメリット
社会保険の適用範囲が広がったことで、社会保険の扶養条件が緩和されます。社会保険の適用拡大によって、社会保険に加入することとなった場合、負担する金額が増加する恐れもあります。
とくに、配偶者が社会保険加入者であり「健康保険の被扶養者」「第3号被保険者」である人は社会保険料の全額が負担となってしまいます。手取り給与が減少するため、自身の負担額をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。
社会保険の適用拡大が企業に与える影響
2022年10月から段階的に始まる社会保険の適用拡大において、企業側はとくに事前の準備や対応が必要です。数日を要する可能性があるため、早めに準備・対応をすすめることをおすすめします。
1、社会保険適用となる対象者を把握し通知する
以下の条件に該当する従業員が対象です。
・1週間の労働時間が20時間以上30時間未満
・賃金の月額が8万8,000円以上
・継続で2か月以上の雇用見込みがある
・生徒や学生ではない
ただし、契約上において労働時間が週20時間未満であっても、実労働時間は必ず確認するようにしましょう。実労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、その状態が続くと見込まれる場合は、3か月目から社会保険の加入が必要です。これらを確認し、対象者に通知します。
2、社会保険適用の拡大による費用を算出する
社会保険適用の拡大後、負担する社会保険料の算出をしましょう。算出には、厚生労働省の社会保険適用特設サイト「社会保険料かんたんシミュレーター」がおすすめです。
3、必要書類の作成・届出
日本年金機構から通知書類が届きます。通知があった企業は、書類作成と申請を行いましょう。オンライン申請が可能なケースがあります。
「社会保険の適用範囲拡大」は、これまで積極的に働いていない・働くことができなかった働き手に注目した働き方改革のひとつです。働き方が多様化し、多くの人が働きやすい環境へ変わっていくことが期待されています。一方で、働き手は手取り額や給付額の変化、企業は必要経費の増加・事務手続きといった影響を受けるといえるでしょう。事前に、変化や影響を把握し、少しずつ準備しておくことをおすすめします。